荻房について

日本の漆工芸は、私たちが祖先から受け継いできた大切な文化です。
器は命あるものとして、大切にそして美しく使い継いでいくことが世界中で見直されはじめています。
しかし日本の食卓からは本物の漆器が若い方々を中心に扱いが厄介であるとか、
やや高価であるという理由で急速に姿を消しつつあります。

朱塗りの椀など、落ち着いた色合いに程よい艶、木の器のもつ保温性と手に持ったとき、
陶磁器のように熱く感じない等、漆器には、素晴しい良さが沢山あります。
漆工芸がjapanと呼ばれるぐらい日本を代表する工芸であった筈ですが、
現在市場に出回っている漆器の多くが中国をはじめとする東南アジアで生産され、
国内で使用される漆液のなんと98パーセントが中国を中心とした輸入に頼っており、
高品質ですが高価な国産の漆液は、絶滅の危機にさらされています。

原材料の良し悪しは、仕上がってからの器の美しさや丈夫さに大きな影響を及ぼします。
私たち荻房は、10数年前から茨城県北の奥久慈地方・山方町(現在の常陸大宮市)に、漆を植えることから始めてきました。
現在では500本ほどの自前の漆林を持ち、近隣農家の協力で、
多くの漆の木が工房周辺に植えられている恵まれた環境です。

約10年前から、近隣の漆掻さんから採取の仕方を指導頂いたり、
岩手県二戸市での漆掻き技術保存会での長期研修や
新潟県朝日村の故渡辺勘太郎氏に技術指導を受け、奥久慈漆の採取を始め、
現在下地の一部に使用するもの以外の漆液の殆どを自ら生産精製し、漆液の完全自給を目指しています。
もう一つの要である木地も、2000年に漆園のそばに奥久慈工房を作り、
国内のさまざまな場所から厳選された木材を選びロクロによって木地を制作しています。
一つの漆器を作る為のほぼ一貫した自給体制が整っています。

漆と木の原材料にこだわり、何よりも今の生活を視点においたデザイン、
親しみやすくてシンプルで飽きのこない、その上環境に配慮した丈夫な器造りが
荻房の工芸の理念として工房のスタッフが努力をしております。
素材はすべて自然の恵み、その殆どは植物から出来ています。
少しの優しさと愛情を持ってお使い頂ければ、器は美しさと永い命を与えられ、
より一層皆様の生活を豊かに彩ってくれることと思います。
日本の漆文化を絶やさずに次の世代に高品質な漆の器を継承していくことは、
作り手である私たちの責任でもあると考えています。

漆工芸 荻房 本間 幸夫

NPO法人壱木呂の会 理事長
奥久慈漆生産組合 顧問
常陸大宮大使